褥は遠く

もうすぐ冬になろうというのに、ここのところ毎日雨が降り続いている。山を彩っていた紅葉はこの雨で散ってしまったことだろう。
 格子窓から外の様子をひとしきり眺めた後、炉端へと座り込む。古びた床がぎしり、と音を立てた。

 寒さに身を震わせると囲炉裏に火をつける。小さな炎が揺らめき、徐々に大きくなっていった。時折木切れを足し、炎の大きさを調節する。

 昨日からこの廃寺に籠もることを余儀なくされていた。
 幸い、つい最近打ち棄てられたのか、比較的小綺麗なままだったので良かったけれど。
 「……寒いなぁ」
 雨のおかげでわからないが、じきに夜になるだろう。起きていても仕方がない。さっさと寝てしまおう。
 じんわりと暖まってきた身体を横たえる。念の為に脇差を懐に忍ばせて身を縮こませた。
 眼を瞑り火が爆ぜる音を聴く。仄かに温かい空気は、少しだけあいつの体温に似ていた。

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 ふと何かに呼ばれたかのように眼が覚めた。
 蒲団の中で身じろぎもせず、気配を探る。……どうやら間者ではないようだ。
 何か物音でもしたのだろうか。それだけで起きたのならば、私もまだまだである。

 耳を澄ませば、数日間降り続いていた雨が止んだようで、微かに虫の声が聴こえる。 
 起き上がって長屋の廊下へ出ると、晩秋の冷雨はすっかり上がり、空には後の月が浮かんでいた。
 淡く白みがかったそれは眩いばかりの光を放ち、開いた戸の合間から床に差し込んでいる。

 「ひとりぬる 山鳥の尾の しだり尾に 霜置きまよふ 床の月影、か」

 小声で諳んじると戸を閉め、冷たい蒲団に潜り込む。
 明日もまた授業が詰まっている。早く寝なければ。
 そう思えば思うほど、何故か落ちつかない気持ちになってしまう。
 ……一人寝とはこんなにも寒いものだっただろうか。
 ここには居ない温もりを求めている己に嘆息すると、諦めて瞼を閉じるのだった。

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