雪になり損ねた雨が窓を打ち続けている。カーテンを捲り、眼を凝らしてみれば、闇の中に線のような氷雨が見えるだろう。最近は天気が悪い日ばかりで、今夜は一段と冷え込んでいる。明日は晴れてくれれば良いのだが。
そう思いつつ、真っ暗な背景に白い文字が流れる液晶を眺めた。映画は既にエンドロールの終盤のようで、監督名と制作会社のロゴが表示されている。特典映像が無いことを確認してから、リモコンでテレビの電源を消し、炬燵に潜り込もうとした。
……向かい側で寝ている新左ヱ門の様子を見るのを忘れていた。
映画の途中でうつらうつらとしていたのは知っていたが、熟睡してしまったらしい。ここのところ忙しかったから、疲れているのだろう。
ブランケットを探し出し、静かに新左ヱ門の身体に掛けた。ふわふわで厚手の生地だから、炬燵布団だけよりも大分暖かい筈だ。
座ったまま、ぼんやりと柔らかい布を触っていれば、ふと前世のことを思い出した。
ずっと昔、新左ヱ門とは恋仲などではないとまだ私が思い込んでいた頃。共寝をしていて、夜中に眼が覚めた時があった。隣にこいつが居るのが嬉しいのに、居心地が悪くて仕方が無かった。それでも、触れたくなって。矛盾しているのはわかっていたが、頬なら口付けても赦されるだろうかと考えて────やめたのだ。
そんなことをする資格は無いと思った。ただ勇気が無かったのかもしれないが。
衣擦れ一つで虫さえ起きそうな静かな夜。息を殺してほんの少し、一瞬だけ、指を絡めてすぐに放した。それで充分すぎるくらいだった。
戸部ちゃんが身動ぎした気配で現実に引き戻される。聞こえてくるのは穏やかな寝息で、起こしてしまったわけではないらしい。
……今世だって手を繋ぐことにも心臓が痛くなるのに、随分と俺は欲張りになった。仄温かい頬をそっと触り、己の顔を寄せる。唇にするのは流石に憚られて、額に軽く口づけた。
何故だか、漸く本懐を遂げられたような気がした。